...さながら恍惚とした法悦の輝きを...
芥川龍之介 「地獄變」
...「惚れてたとすればどうなるかね」「それはどうにもならないけど――」「しかし僕は惚れてなんか居ないよ」と天願氏は断乎(だんこ)として言い放った...
梅崎春生 「風宴」
...うつとりした眼つきで自分の手首に穿(はま)つた手錠に見惚(みと)れてゐる...
薄田泣菫 「茶話」
...その寐惚顔(ねぼけがお)には忽(たちま)ち冷笑(れいしょう)が浮(うか)んだので...
アントン・チエホフ Anton Chekhov 瀬沼夏葉訳 「六号室」
...男は国へ掃ってまず番頭を呼び、お金がもうこの家に無いというけれども、それは間違い、必ずそのような軽はずみの事を言ってはならぬ、暗闇(くらやみ)に鬼と言われた万屋の財産が、一年か二年でぐらつく事はない、お前は何も知らぬ、きょうから、わしが帳場に坐る、まあ、見ているがよい、と言って、ただちに店のつくりを改造して両替屋を営み、何もかも自分ひとりで夜も眠らず奔走すれば、さすがに万屋の信用は世間に重く、いまは一文無しとも知らず安心してここに金銀をあずける者が多く、あずかった金銀は右から左へ流用して、四方八方に手をまわし、内証を見すかされる事なく次第に大きい取引きをはじめて、三年後には、表むきだけではあるがとにかく、むかしの万屋の身代と変らぬくらいの勢いを取りもどし、来年こそは上方へのぼって、あの不人情の廓の者たちを思うさま恥ずかしめて無念をはらしてやりたいといさみ立って、その年の暮、取引きの支払いを首尾よく全部すませて、あとには一文の金も残らぬが、ここがかしこい商人の腕さ、商人は表向きの信用が第一、右から左と埒(らち)をあけて、内蔵はからっぽでも、この年の瀬さえしっぽを出さずに、やりくりをすませば、また来年から金銀のあずけ入れが呼ばなくってもさきを争って殺到します、長者とはこんなやりくりの上手な男の事です、と女房と番頭を前にして得意満面で言って、正月の飾り物を一つ三文で売りに来れば、そんな安い飾り物は小店に売りに行くものだよ、家を間違ったか、と大笑いして追い帰して、三文はおろか、わが家には現金一文も無いのをいまさらの如く思い知って内心ぞっとして、早く除夜の鐘が、と待つ間ほどなく、ごうん、と除夜の鐘、万金の重みで鳴り響き、思わずにっこりえびす顔になり、さあ、これでよし、女房、来年はまた上方へ連れて行くぞ、この二、三年、お前にも肩身の狭い思いをさせたが、どうだい、男の働きを見たか、惚(ほ)れ直せ、下戸(げこ)の建てたる蔵は無いと唄にもあるが、ま、心祝いに一ぱいやろうか、と除夜の鐘を聞きながら、ほっとして女房に酒の支度を言いつけた時、「ごめん...
太宰治 「新釈諸国噺」
...しまいには惚気(のろけ)交りにそんなことを云う始末であった...
谷崎潤一郎 「細雪」
...私は若い西洋の女優の腕の白さに見惚(みほ)れたことがありましたっけが...
谷崎潤一郎 「痴人の愛」
...見惚(みと)れるともなく見惚れながらぼんやり彳(たたず)んでゐるのであつたが...
谷崎潤一郎 「猫と庄造と二人のをんな」
...自惚れあがった卑劣な醜怪な動物だけだ...
アントン・チェーホフ Anton Chekhov 神西清訳 「決闘」
...――そう思うと自惚(うぬぼ)れるんです...
近松秋江 「雪の日」
...正面に聳(そび)える六百山(ろっぴゃくざん)と霞沢山(かすみざわやま)とが曇天の夕空の光に照らされて映し出した色彩の盛観に見惚(みと)れていた...
寺田寅彦 「雨の上高地」
...まさに惚々(ほれぼれ)したいい声であったが……姿を見ると案外の代物(しろもの)...
中里介山 「大菩薩峠」
...惚氣交(のろけまじ)りの身の上話で...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...もう一人岡惚れの人別帳に書き入れが増えたらう」「驚いたね...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...見惚(みと)れるようにたっぷりとした肉づきであった...
林芙美子 「晩菊」
...黙つて奇妙な光景に見惚れてゐた彼は...
牧野信一 「「悪」の同意語」
...ほやほや惚れた、れた……と、きいきい軋(きし)むヴァイオリンが、同じメロディを幾度となく繰りかえされながら、うたわれるのであった...
室生犀星 「幻影の都市」
...花嫁御(はなよめご)はシッカリあんたに惚れて御座るばい」そう云ううちに新郎の前へ一升入の大盃を差突けたのはこの村の助役で...
夢野久作 「笑う唖女」
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