...しみじみと礼の言葉をかけられたことなど嘗て覚えのないことだし意外だった...
大鹿卓 「渡良瀬川」
...雑種の夷人前代未だ嘗て帰附せざるもの...
太宰治 「津軽」
...たとひ自分の感覺によつて嘗て受取つたすべてのものが僞であると假定しても...
デカルト Renati Des-Cartes 三木清訳 「省察」
...嘗て讀んだ大町桂月氏の何やらの紀行文に『濃碧の海淡黄の空』とあつた句を思出す...
土井八枝 「隨筆 藪柑子」
...嘗て彼女も、恋愛を経験したことがあり、相手の男は戦争中に陣没したが、忘れかけていたその青春が、また芽を出した...
豊島与志雄 「女心の強ければ」
...それは実際巣鴨の場末の田舎に居た「肥桶(こえたご)」の嘗て知らない楽しみであった...
豊島与志雄 「少年の死」
...嘗てそれらの人の為した姿が...
豊島与志雄 「都会の幽気」
...此の二本の棒……は嘗て昔は金箔を施してあったものだが...
直木三十五 「大衆文芸作法」
...私は從來嘗て人に打明けたことがありませんでしたが...
長塚節 「教師」
...大寺の父は嘗て道子の父親に大変世話になって居た人でしたが...
浜尾四郎 「彼が殺したか」
...嘗て通達などしたためしのない収容所から...
久生十蘭 「ノア」
...若松でも売っているのだが、今、嘗て、青春の日に、マンにあたえた「懐中ランプ」と寸分たがわぬ形の品を発見して、足がすくんだのである...
火野葦平 「花と龍」
...私以上にその伴侶に近づいたものは嘗てない――これ以上にまつたく彼の骨の骨...
ブロンテイ 十一谷義三郎訳 「ジエィン・エア」
...そして哲學者のうち嘗てへーゲルほど歴史的社會的存在に關して廣汎な...
三木清 「唯物史観と現代の意識」
...此語は金風さんが嘗て広島にあつて江木鰐水の門人河野某に聞いた所と符合する...
森鴎外 「伊沢蘭軒」
...嘗て蘭軒の集に見え...
森鴎外 「伊沢蘭軒」
...嘗て小説に及ばざりき...
森鴎外 「柵草紙の山房論文」
...蓋し観感興起の理、所謂「インスピレーション」の秘奥は深く人心の裏(うち)に潜む、吾人今其如何にして英雄の品格が他の英雄を作り能ふかを弁解せんとする者に非ず、而れども生物が生物を生ずることが生物界の原則たるが如く、英雄の好摸範が更に他の英雄を造るの一事は疑ふべからざるの事実なり、国家若し英雄漢あらんか、一波万波を動し、一声四辺に響くが如く、許多の小英雄は恰(あたか)も大小の環(わ)の如く、中心なる大英雄を取巻きて、一団の人色を造るべし、彼等は斯の如くにして革命を催すべし、国の元気を恢復すべし、其土地の塩となるべし、其世の光となるべし、大学に所謂一家仁、一国興仁、もの是也、西郷南洲氏は、是を以て百二都城の健児を結び、維新の盛事を成せり、十年の争乱を惹起(ひきおこ)せり、新島襄君は是を以て「コンクレゲーショナリスツ」の一派を結び、我日本の精神世界に運動を試みたり、孔夫子は嘗て、是を以て、支那の人心を結びたり、今日も猶其残喘(ざんぜん)を保ちつゝあり、国の進動する所以(ゆゑん)の者、此に存す、国民若し仰ぎて中心とする英雄微(なか)つせば、其文明は到底唯物的の魔界に陥らざるを得ず...
山路愛山 「英雄論」
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